いつか

 Ⅰ


 初めて剣を合わせた日、俺はあいつが宙に浮くのを見た。
 あいつは軽々と飛んだ――誰にも見咎められないように。
 だけど、確かめようにも確かめられなかった。
 いきなり背中を見せろと言えないだろう、普通は。

――そうしたら、夏になって水の中で近づく場面があって、無意識に一瞬だけ背に触れた。目に見えるものはなかったけれど、何かがそこに存在していることは確かめることができた。
「――気付いちゃった? でも、今日はそれ、使わないよ。水の中だからね」
 知られて困ることでもなさそうに呟いて、いるかはすぐ水へ潜った。俺もとりあえず、それを追って水の中へ入った。


 夕暮れ時。
 芙蓉の景色の中で、あいつは言った。
……やっぱり、全然、大したことではないかのように。
「そう、あれ、羽根なの」
「……」
「春海に見られてたのかあ。気付かなかったなあ」
「……」
「信じなくてもいいけどさあ」
「……だってな、俺はこの目で見たんだから」
「うん、驚いた。めんどくさいんだよね、これ」
 と言いながら、いるかは少し背を逸らせて、後ろ向きで指さした。
 水着の中に、隠れてるんだろうか。
 いくら小柄でも、身軽でも、明らかに「飛んだ」のとでは話が違うじゃないか……
 どういうことなんだ?
 これはいったい、どういうことだ。
「あたしが飛ぼうと思ったら飛べる訳じゃないんだよ。いつも勝手に、いつの間にか、浮いちゃう訳」
「……」
 返事のしようがない、というのはこのことだ。
 こんな普通でない事態なのに、こいつはあっさり認めて笑いさえする。俺も、否定しようと思わない。
 確かに、それは、いかにもあり得そうなことで……
 そうでもなければ、納得できないことだらけのようで、頭が混乱する。でもそんな疑問も、やはり一瞬だけだった。
 あっさり認めるいるかと同じく、俺も――比較的――あっさりと受け入れたのだ。


 この女には羽根がある。



 Ⅱ


「彼女は羽根を持っている」


 あまりに現実味のない言葉だが、よくよく考えてみるに、羽根というのはつまり――あいつの人間離れした身体能力に、名前をつけただけの状態じゃないのかとも思う。


 いるかは、自分で好きな時に飛べる訳じゃないと言った。ということは、あいつは自分のその力を、意図的に発揮しているのではない……
「いつも勝手に浮いちゃう」と言うのだから、飛ぼうとか跳躍しようとか、いるかが思ったその時に羽根が機能するという訳ではなさそうだ。

 聞かなかったことには、できない。
 気付いたのは、今のところ「春海ひとりだけ」らしいから。そう、俺は見た。だからもう知らないふりも出来ないし、しようとも思わない。
 いるかが、こっちが拍子抜けするぐらいあっさりと答えたのも、あいつにとっては特に隠すほどのことではないからだろう。

 どう考えても普通じゃないことなのに、あいつはとても自然に見える。
 もちろん、だからと言って自分から吹聴するようなこともしない。
 自分の好きなように操れなくても、いるかはその事実をごく自然に受け入れて「羽根」と共存しているように思えた。 

 どうしてか分からないけど、剣を持つ時だけはやたら浮き上がっちゃうんだよね、何でかなあ――といるかは言う。

 そういう相手と剣を交えるのは、俺にとっても貴重な……まさに、稀に見る体験ではあった。
 飛んだり浮いたりするのはともかく、あの剣の鋭さ、重さは女子としては信じがたいほどだ。羽根があろうとなかろうと。

――今日、ちょっと浮いたか?
――さあ? 自分じゃ分かんない。春海、見たの?
――見た……ような気がする。

 道場ですれ違うついでの、小声の会話。
 こういうことがいつの間にか普通になってしまった。誰にも聞かれないように――というのは当然だが、俺もいるかも「今日の体調はどう?」というぐらいの気軽さで、謎の物体の存在を共有しあっているのだった。

 しかし。
 しかし、やはり、それが普通でないことは分かっていた。
 俺の目にどんどん大きく広がっていく、あの奇妙な光の塊は何なのだろう。毎日どこかで、あいつを見ていないと――あいつの持つ羽根を確認しないと心が落ち着かない。
 あいつのことだ、毎日飛び跳ねていると言ったってそれは比喩でも何でもなく、現実のことなのだから。
 誰かに見られたらどうするんだ、いつか……
 俺が見てしまった時のように、いつか他の誰かにだって見られてしまう……そうなってもおかしくない。いるか自身は、そのことには恐ろしいほど無頓着だったのだが。

――そりゃあ、聞かれたら『うん』って言うよ。春海だって信じてくれたんだし。

……そういう問題なのだろうか。
 俺は見たから、信じる。当人も認めていることだ、信じない訳にはいかない。
 でも、あれは他の奴にも見えるのか? 信じるのか?
 気付いているのは本当に、俺ひとりなんだろうか?
 今も――見えてはいないけれど――走り回っているあいつの背後にいつもあるはずの……

 朝っぱらから、修学院の主力クラブの主将が四人揃って、のんびり女子サッカー部の見学をしている図は異様らしい。
 別に俺は、皆を誘った訳じゃないんだが……男子サッカー部キャプテンの進だけでなく、アイスホッケー部の一馬と柔道部の兵衛にもそれは結構な見物であったようだ。
 結局のところ、少し息抜きをしたい男連中のたまり場になっているだけだった。
 俺も、最初のうちはどうなることかと思ったが、いるかを追っていても常識の範囲内での身軽さ、俊敏さが見て取れるだけで、ここしばらくは俺も、あの羽根を見ていなかった。

 あいつって本当に身が軽いよなあ……と、グラウンド中を駆け回る姿に感心したように一馬が言う。
 スタミナが普通じゃないんだよな。ま、今さら驚きゃしねえけど……と進が返す。
 あいつの場合、背が低いってのはあんまりハンデにならねえみたいだし……低けりゃ飛べばいいんだろ、って感じだもんな……三人がそう言い合って、総意を求めているのか、俺を見た。

――確かに、そうかもな。

 俺が呟くのと同時に、グラウンドでは朝練習が終わったらしかった。
 いるかは遠目にも、どんな時でも――無意味に、とさえ言いたい身軽さで――飛び跳ねている。転校当初、スポーツ全般に何の関心もなかった頃と比べると、あいつも随分と変わったもんだ。
 如月院長が、何が何でも孫を倉鹿で鍛え直すと考えたことは間違いではなかったと思う。……たかが中学生の俺がこんなことを言うのは、小賢しいんだろうが……

 後から考えてみれば、いるかのことを――いるかと羽根のことを――考えるたびに引っかかる何かがあって、俺は多分、無意識にそれを追い出していた。片隅に放置したまま忘れてしまっていた。
 そして、いつだって人間は最後の瞬間に思い出すんだ。


 俺が、行くんじゃない。
 俺は置き去りにする方じゃない。
 羽根を見てしまった以上、俺は飛び立つ側にはなれないのだと……そんな簡単な答えを見落としてしまうぐらい、ずっと、あいつを見ていた。そうしているうちに、見ているだけでは耐えられなくなった。

 触れたくなった……あの羽根ごと。


 季節が毎日、少しずつ……でも確実に流れていく。
 意見の衝突やすれ違い、おまけに俺の上京話まで持ち上がって一騒ぎあり、触れるどころか悲しませることばかり続いた果てに――
 気がついたら、春だった。
 
 思いが通じて、痛感した。
 生まれて初めて、自分でない誰かを切実に求めた。
 その目で俺を見てほしい。名前を呼んでほしい。同じように思っていてほしいんだと……
 間近で見つめても抱きしめても、羽根を見ることはなかった。
 思い出すのは、甘い味をした初めてのキスのあと、なぜかやけに眩しく映る川辺を、手をつないで歩いたことだ。
 いるかは赤くなってうつむいて、言葉もなく、俺に手を引かれて黙って歩く。もしかしたらこの瞬間、羽根は俺に生えてるんじゃないかと思った。
 地に足がついていない感覚というのは、こういうことなんだろうか。……二人とも黙り込んで、手だけがずっと温かい。

 触れていたいな。このままずっと……
 生きてきたのはたった十数年、でも、そんな人生で俺は初めて飲み下した。強烈に甘くて、そして少しだけ苦いものを。

 いるかは俺を見て笑った。
 照れて、うつむいた。黙り込んで、赤くなって、慌てたように目を逸らしたりした。
 俺がじっと見ているのが困るらしい。
 でも、俺としては、目を離すどころじゃないから――いつの間に、俺の中に飛び込んできたんだろう、と思っていた……

 そう、あの時、俺には見えていた。
 泥だらけのユニフォーム。
 春海、と叫んで飛びついてきた……

 あの時、確かに、おまえには羽根があった。
 
 あ、羽根見えてるぞ――と思った瞬間、いるかが文字通り飛び込んできて……しがみつかれたんだ。

「はるうみっ!」
「ばか、おまえ……」
 俺は慌てて、いるかの背中を押さえ込むようにして、小声で言う。グラウンドに響く歓声が大きすぎて、いるかには聞こえていないようだった
「おまえ、羽根……!」
「え……? あれ……?」
 俺はとにかく、いるかを抱え込んだままで――背中を隠しているのだから、そういう体勢になってしまうのは仕方ない――いるかはいるかで、自分の背を確かめようとするもんだから、傍目には俺たちがどう映ったのかは……想像に難くない。
 俺が、いるかを離すまいとしているようにしか見えないだろう。
「大丈夫、大丈夫だって、春海。そんな必死で……隠さなくても」
 いるかがさすがに、息切れしそうな声を上げた。
 俺が腕を解くと、小さな動物みたいにするりと体を退いて、いるかは俺を見た。
……ここしばらく、俺を見るたびに顔を逸らしたり、怒った顔だったよな。おまえって……
 知ってるのかよ、おまえ。
 俺が平気だったと思ってるのか……?
 おまえは……?
「ありがと、春海」
「……」
「ありがとね、ほんとに」
 そう言ういるかの背には、もう何もない。ずっと口を聞いていなかった俺のひそかな苦痛を察したかのように、あの羽根は俺の目に飛び込んできた。持ち主ごと、飛び込んできた。
 これほど効果的な出現はない、というぐらいに……

 他に呼びようがないから、羽根と呼んでいるけれど。
 本当は違うんじゃないのか?
 違う名前をつけるとしたら――あれは――いるかの身体能力……? あいつの生気……? 底知れない生命力が、たまたま形になっただけなのか。
 飛び降りてきても、気がつけばもういない。
 いつも目で追っていないと落ち着かない。
 思えばあの時が、俺の生きてきた道、生きるべき道の分岐点だったのかもしれない。
 今ではもう、いるかのいない毎日は考えられず、こうして手を握っていても、傍にいても、根拠のない焦燥感に煽られて居たたまれず、そんな感情を一から十までいるかに説明する術もない。

 なぜだろう。
 俺は焦っていた。
 まだ早い春の日、やっと捕まえたはずの羽根がもっと遠くに羽ばたくような気がして、空を見上げる。
 いるかは、ここにいるのに……

 どうしてだろう。
 俺は、知っていたのかもしれない。
――飛び立つのは俺じゃない、ということだけを。



 Ⅲ


 あたしには羽根がある。
 そして、その羽根はあたしを、あたしの大事なものから遠ざける。
 こんなものがあるのに、あたしは自由じゃない。
 今すぐ春海のところに帰りたい、戻りたい。そして、あたしも好きだよって何度も言いたい。


 ごめんね、ごめん。
 いちばん大事なこと、言えなくてごめんね。
 ありがとう……
 ごめんね、いつか……
 いつかきっと……



 ◇



 それが本当に羽根なのか、羽根の形をした別の何かなのか、あたしには分からない。
 羽根と言ったって、空をふわふわ飛べる訳じゃない。そもそも、あたしの言うことを聞いてくれないし、あたしの好きなように出したり引っ込めたり出来る訳でもない。
 魔法でもないし、超能力でもない。
 ただ……ああ、あたし今、すごく体が軽いなあって思う時、かなりの確率で羽根があたしを宙に浮かせている。
 最初は面食らったけど、そう滅多に出てくるもんじゃないし、人に説明する自信もないから黙っていた。
 当のあたしだって倉鹿に来てから気づいたぐらいで、本当はいつから、背中にこんなものがくっついているのかも知らないんだから。

 でも、春海は気づいてた。
 どうして春海なのか、なんで春海ひとりだけなのか。
 信じないだろうなと思ったけど、信じてくれたみたいだった。
 なんでこんなものがあたしにあるの? と、頭の良い春海に説明してほしいぐらいだったけど、この世には、さすがの春海にだって分からないことがあるんだって知った。

――分からないけど、俺は見たから。
 だから信じるよ。
 信じない訳にもいかないだろう。だって本当に、俺は見たんだから。

 どうして春海だけなのか。
 どうして春海にだけ見えるのか、その時のあたしに分かるはずもなかったけど……いつか春海が、こう言ったことがあった。
 そう、ちょっとだけ、いつもの春海と違う目をして。
 あれは初めての……チョコレート味の……あの日だ。

――例えばさ、おまえが、俺のこと……
 俺がその場にいたら、つい気になって……って、そういうことがあるのかどうか知らないけどさ……もしおまえが、俺のことずっと見てたらさ、気づくと思うんだよ。
 もし俺にも、おまえみたいな……
 そういうものがあったとしたら――

 そうなのかもしれない。
 でも、そうじゃないかもしれない。
 春海にも羽根とか翼みたいなものがあったとしたら、あたしは気づくのかな。春海のことを好きだって思った時、すぐ気づいてたのかな。
 でも。
 あたしの羽根は、あたしを助けてくれる訳じゃない。
 夏になってすぐ届いた手紙――
 こんなもの、あったところで何の役にも立たないよ。こうなってしまっては、まるであたしを東京へ連れ戻すために作られたものなのかって思ってしまう。
……そう、あたしの帰るべき場所は東京。
 倉鹿に来た最初のうちは、そう思ってた。
 早く帰りたかった。
 別に、倉鹿が嫌いだとかそういう意味じゃないけれど、ずっとあたしの居場所は東京だったから。
 口うるさいじいちゃんの熱血教育になんか、付き合っていられない。
 生徒会ってのがまた、じいちゃんの好きそうな仰々しい名前つけて、何だかやたらえらそうでさ。
学校内を取り仕切ってるみたいな――人のことを馬鹿にしたような笑い方をする生徒会長だって、気に入らなかった。
 そりゃあ、まあ、会長になるだけの力はあるんだな、とは思ったけど……
 最後まで張り合って、勝負がつかなかった時の春海の顔ったら!
 二人の会長ってことになっても、まだ喧嘩ばっかりしてたよね。あたしたち……

 思い出すと、つらい。
 いつかは東京に戻るってこと、どうしてあたしは忘れていられたんだろう。でも、ずっと忘れずにいられたとしたら、あたしは春海を好きになったのかな?
 どうせいつかは離れてしまうんだから、って、好きにならずにいられたの?――そんな器用なこと、あたしに出来るはずがない。

 進に秘密を聞かれて――そこに春海が突然現れて――
 何かを考えるひまもなく叫んだ言葉。
 それを聞いて、春海が黙ってしまった。
 今まで見たことのない表情だった。どういう誤解をされたのか、考えるのもつらい。でも、本当のことは言えない。
 進にも言った、絶対に春海には言わないで。
 誰にも言わないでって。
 そう言われて困るのは進だってことは分かっていたけど……

 あたしは羽根を引き裂きたい。
 こんなもの、いらない。
 あってもなくても関係ないのなら、いらない……そう言いながら泣いた。最後のソフト部の試合でも、東京に帰ることを知られてしまって、泣いてしまった。
 あの日のことは、正直、よく覚えていない。
 ううん、あたしは覚えてる。いつの間にか現れた春海が、声を張り上げて応援してくれたことだけは……
 みんなが、いるか、いるかって応援してくれたことだけは。
 空に向かって飛んでいったホームラン。あのボールにこそ羽根があるみたいだった。
 試合が終わって、春海が「いつ帰るのか決まったら、教えろよ。ちゃんと送るから」と言ってくれて、あたしを一言も責めなかったことも。
 みんなが泣き笑いをしていたことも。
 あたしが、最後の嘘ををついたことも……覚えている、
──だから!
 だから、幸せな思い出だけを覚えてて、それだけを大事にして、あたしはここから消えてしまおうって思ったのに!

 いやだ!
 鳴らないで!
 発車ベルなんて聞きたくない!――今頃、川に集まっているはずのみんなのこと、みんなの顔、考えたくない……考えたくない……
 早く止んで、このベル。聞きたくない……聞きたく……
 その時、ベルを押しのけて響いてきた音――声。

「いるかちゃん! 行っちゃいやだ!」
「――いるか!」

 ねえ、春海。
 あたしには羽根があるって、春海も言ったよね。
 見たから信じるって。
 本当にそうなの? あれは羽根だったの、本当に?
 あたしは今、飛んでしまいたいよ。この羽根があたしの言うことを聞いてくれるのなら。
 春海のいる場所へ……
 
「いるか……!」

 だけど、飛べないよ。
 あたしは知ってた、いつかは戻るということを。
 忘れていたけれど、心のどこかでは覚えてた。
 羽根を見られたから、あたしはここにはいられない……昔、どこかで誰かに聞いたおとぎばなしのように。
 だから、ふっと、夢のように消えてしまいたい。
 だって、忘れられるのは辛いから。思い出になってしまうのは悲しいから。あたしは忘れたくないから、だから、だから……

(ごめんね、だって。
 あたし、見送られるのがつらかった――)

 一瞬だけあたしたちが……あたしたちの唇が重なったのは、春海が羽根を引き裂いた証拠。
 あたしが消えてしまうのを引き止めようとして、跡形もなく、裂いた。
――そう、引き裂いたんだ。
 間に合った。
 あたしと春海の間にある邪魔なもの。最後の瞬間にちぎれた羽根。
 泣きながらあたしの名前を呼んだ春海の手にはきっと、見えない羽根のかけらが散らばってた。


hanehand.jpg


 
 自分も行くから……きっと来年、東京に行くと叫んだ春海に、いつか、あたしはもう一度会いたい。会いたい、会いたい。会わなきゃいけない。
 ごめんね。
 でも、春海が羽根を壊してくれたから、あたしは東京に戻ったら泣くことをやめる。いつか、いつか、いつかまた会える時には笑えるように……



 電車が今、深い息を吐く。見慣れた景色が流れて、消える。
 あたしはここを出て行くけれど、どうか、忘れないで。
 胸の高鳴りとためらいを教えてくれた、大事な人。
 おまえが好きだ、と言ってくれた人。ありがとう。
 いつか、きっと……



 あたしは今、思いきり泣いたら、また笑うよ。
 いつか会えると信じるから。
 その手にある羽根を、終わってしまった思い出だと抱きしめて泣かないでね。
 あたしは、ここにいるから。この生きてる身体で、いつかもう一度、春海の笑っている顔に出会いたいから。
 おとぎばなしのように、あたしが元の世界に戻ってしまっても――だからって、その世界であたしたちが再会してはいけないなんて、誰が決めたの?
 ねえ、そうでしょ? いつかもう一度会えるよ。
  

 あたしの羽根。
 いつか、自分の心で広げることができると信じるから。




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